大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)942号 判決 1974年6月28日

上告人

入沢一介

右訴訟代理人

内藤功

外二名

被上告人

株式会社鈴木商店

右代表者

鈴木伊三部

被上告人

鈴木裕幸

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人内藤功、同加藤雅友の上告理由第一について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして首肯するに足り、その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二について。

所論の点に関し原審の適法に確定した事実関係によれば、

(一)  本件手形(約束手形)はすべて上告人が仮空人である「山田製作所代表山田照夫」の名称を使用して振り出したものであり、上告人が本件手形の振出人として右のような名称を使用したのは、受取人として記載された訴外有限会社入沢商店(以下、入沢商店という。)が被上告人らに本件手形を裏書する際、第三者振出のいわゆる商業手形であるかのように見せかけて、その信用をたかめるためであつた。

(二)  本件手形は、受取人である入沢商店から被上告人らに対し商品取引代金の支払または手形割引のために裏書交付されたものであるところ、上告人は、その際、入沢商店が振出人から商取引の代金決済のためにこれを取得したものである旨説明し、被上告人らも、振出人と受取人とは別人であると考えて本件手形を取得したものである。

というのである。

右事実関係のもとにおいては、上告人は、本件手形振出人にあたり、仮空人である「山田製作所代表山田照夫」名義を冒用したものであつて、偽造手形を振り出したものと認めるべきものであるところ、偽造手形を振り出した者は、手形法八条の類推適用により手形上の責任を負うべきものと解するのが相当である。けだし、手形法八条による無権代理人の責任は、責任負担のための署名による責任ではなく、名義人本人が手形上の責任を負うかのように表示したことに対する担保責任であると解すべきところ、手形偽造の場合も、名義人本人の氏名を使用するについて何らの権限のない者が、あたかも名義人本人が手形上の責任を負うものであるかのように表示する点においては、無権代理人の場合とかわりはなく、したがつて、手形署名を作出した行為者の責任を論ずるにあたり、代理表示の有無によつて本質的な差異をきたすものではなく、代理表示をせずに直接本人の署名を作出した偽造者に対しても、手形法八条の規定を類推適用して無権代理人と同様の手形上の担保責任を負わせて然るべきものと考えられるからである。そして、このように解すると、手形の偽造署名者に対しては、不法行為による損害賠償請求という迂遠な方法によるまでもなく直接手形上の責任を追求し得るし、また、手形偽造者が本来の手形責任を負うべき債務者として追加されることによつて、善意の手形所持人は一層手厚く保護され、取引の安全に資することにもなるものと思われるのである。

以上の次第であつて、上告人は、本件手形につき手形上の責任を免れることはできないものというべく、これと同旨の原審の判断は正当として首肯するに足り、原判決に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例